線形系な相性診断
周りに恋愛未経験の学生は意外に多い。しかしながら皆が興味ないかと言えばそうではないと思う。少なくとも「クリスマスの予定は埋まってるよ、バイト」とか「学生の本分は勉強だからクリスマスも勉強します」とクリスマスの時期に聞いてもいないのに話題を提供しだす人は誰よりも恋愛に飢えているように見受けられる。しかしそれではなぜできないのであろうか?それはそもそも自分の理想と自分にとっての理想の両方が理解できていないからだと思う。それでは進むべき方向を見失い、例えるなら何の論理的根拠がないのにトンデモカガクを唱える人々と同じくらい不毛な行為である。己を理解し他人を理解して初めて恋愛のスタートラインに立つことが出来るということは明確である。
本来であれば小学生、中学生、高校生時代とそれぞれの甘酸っぱい時代を経て経験的にこれらのことを理解するはずだが、学生時代こじらせてしまった者はそれがまるっきり抜けてしまっている。十数年かけて得られる経験はもう得ることは叶わない。しかしここで諦めるのは軽率である。経験則というものは人類が築き上げてきた科学によって制御可能にしてきた歴史がある。今から紹介する科学的な相性診断によって足りない経験を補えばよい。これが活用できれば成功率100%の恋愛が可能といっても過言でない。
重要なのは自分と相手の相性である。まず自分を知るには色んな気質を分類し自分の近しい型を見つけるのが得策である。同様に相手の気質にも型を当てはめる。そしてその型と相手の型の相性を測る手段として微分方程式に落とし込みお互いの関係性を時間発展として予測することを考える。いわば科学的な占いをするととらえればよい。文章では伝わりにくいので実際の方程式と図を用いて説明しよう。
Rを自分の相手に対する好意の量とする。正が好き、負が嫌いとする。
Jを相手の自分に対する好意の量とする。同様にして正が好き、負が嫌いとする。
R、Jは時間tをパラメータとした関数と考えると、R-J平面を考えた時
ととらえることが出来る。
人の気持ち、とりわけ恋愛感情というのはしばしば相手の心情に影響されることから、気持ちの時間変化を
という2つの微分方程式で表わせると考えてよい。(1)式は自分の好意の時間変化、(2)式は相手の好意の時間変化を表す。a,b,c,dは実定数である。この連立微分方程式を解き、R-J平面での軌跡から、十分時間が経ったときどの象限にいるのかを捉えることが出来ればある程度の相性を予測できるという仕組みだ。
簡単な例として
という方程式を考える。そもそもRとJという関数はRomeoとJulietの頭文字からとっている。世界的に有名なカップルというだけのことである。ここで(3)式はRomeoのタイプだがRomeoはJulietが好きであればある程好きになる性格だ。対してJulietは移り気なタイプでRomeoが好きでいればいるほどRomeoのことが嫌いになる。逆にRomeoが離れる程Romeoのことが好きになる性格だ。このとき初期条件をRomeoはJulietのことが好き、つまり、JulietはRomeoのことを何とも思っていない、つまりとする。この微分方程式を解き、図示すると以下のようになる。
これが表しているのは両想い、Julietの片思い、仲たがい、Romeoの片思いを繰り返すことである。これが幸せかは別としてこのような予測となった。
ここで(1)式、(2)式のa,b,c,dの組み合わせは正、0、負の3通りを取ると考えるだけでも81通り、またa,b,c,dの大小によって挙動が変わったりするため全ての可能性を列挙するのは難しい。そのため意義があると思われる型とそれらの相性をいくつか考えていきたい。
よくあると思われるタイプを5つほど挙げる。
は直情型である。他者の気持ちを考えず自分の意見優先させるタイプだ。
は他者依存型である。相手の出方にしか自分を確立できない自立できないタイプだ。
はバランス型である。あまり言うことはない。
は慎重型である。少し自制してしまうタイプなのかもしれない。
はカエル化現象型である。よく相談してくるタイプである。
はあまのじゃく型である。生きづらそう。
初期条件は全て,とする。基本的にグラフを書くとき初期時間はとすればよいのだがグラフの軸が消えるといった問題が発生したため負の値から始めたものもある。から矢印の向きに軌跡が伸びていると考えて貰いたい。
直情型()と慎重型()の場合
これは何のリスクもなく両想いになった。最高の相性と言える。
直情型()とあまのじゃく型()の場合
となり残念ながら自分の片思いで終わってしまう。
他者依存型()とカエル化現象型()の場合複雑な挙動をする。
片思い、仲たがい状態と紆余曲折するが最終的には両想いとなりハッピーエンドを迎える。おそらく仲たがい状態の中でカエル化現象型が幾度となく友人に相談している光景が目に浮かぶ。
今まで発散する例を見てきたが収束する場合もある。例えば他者依存型()とあまのじゃく型()の場合
となりに収束していく。これはお互い無関心の状態となるため良い相性とは言えないため注意が必要である。
実定数の大小を変えると挙動が変わるケースがある。例えば慎重型同士でも,なのか,での挙動を比べると
上図の場合両想いへと発散するが、下図の場合の無関心状態へと収束してしまう。
これらの議論よりa,b,c,dの大小を変えたり、当然初期条件をずらすだけでも挙動はずれていくため実際解いてみないと挙動を把握するのは難しい。これは微分方程式の中でも微分方程式の線形系を考える上で単純な例なので色々実験してみて欲しい。グラフの出力はmathematicaで行ったがコードは以下の通りである。
ode1={x'[t]==2y[t],x[0]==1};
ode2={y'[t]==-x[t],y[0]==0};
sol=NDSolve[{ode1,ode2},{x,y},{t,0,5}]
g1=ParametricPlot[{x[t],y[t]}/.sol,{t,0,5}]
これは最初に説明したRomeoとJulietの例である。活用してみて欲しい。
原稿を書いてみて思ったのだが、自分の型、気持ちは自分で頑張って分析するとして、そもそも相手の型、気持ちはどう測ればよいのであろうか。それは小中高で培って得られる能力である。用いるべき理論は得られたが、この方程式を駆使するにはやはり小中高しかやり直すしかないという結論に至ってしまう。科学というのは難しいもので理論はあっても使えないということはしばしばである。次は相手のタイプを測る科学的理論を構築できればと思う。
参考文献
ストロガッツ,スティーヴン(1994)『ストロガッツ 非線形ダイナミクスとカオス 数学的基礎から物理・生物・化学・工学への応用まで』(田中久陽ほか訳)丸善出版.